株式会社FESスイス留学センター
まず結論として、スイスは英語能力が高い国で、特にチューリッヒやジュネーブなどの主要都市や観光地では英語が非常に広く通じます。ただし、地方の小さな町や一部の行政手続きなど、英語だけでは不便を感じる場面もあるため、留学や長期滞在の際は注意が必要です。 本記事では、スイス在住日本人がスイスでの英語・言語事情について詳しくご紹介します。
スイスは他国と比べても珍しいほどの言語的多様性を持つ国です。公用語として認められているのは、ドイツ語、フランス語、イタリア語、そしてロマンシュ語の4つ。この4言語がスイスの文化や社会にどのように根付いているのかを詳しく見ていきましょう。
スイスは地域ごとに言語が大きく分かれており、それぞれの言語が使われる割合にも特徴があります。
興味深いことに、スイスでは英語が非公用語でありながら、その存在感は日に日に増しています。世界的な英語力ランキングである「EF EPIランキング」において、スイスは2023年に世界8位を記録しました。このことからも、スイス国民の英語能力の高さがうかがえます。
スイスでは英語が異なる言語背景を持つ人々をつなぐ「共通語(リンガフランカ)」の役割を果たしています。特に職場環境ではその傾向が顕著です。2023年のデータによれば、スイスの労働人口の約23%が職場で英語を使用しており、これはフランス語の28%に次いで第4位という結果となっています。
このデータは、英語が多文化が交錯するスイス社会で重要な役割を果たしていることを示しています。ビジネスや国際交流の場での必須言語として、今後さらにその価値が高まっていくことが予想されます。
スイスは多言語国家として知られていますが、英語の利用状況においても注目すべき特徴があります。主要都市をはじめとする観光地やビジネス環境では、英語が思いのほか自然に活用されています。それでは、具体的な場面ごとに英語の使用状況を見ていきましょう。
スイスの主要都市、例えばチューリッヒ、ジュネーブ、バーゼルでは空港、ホテル、レストラン、観光案内所などで英語が非常に広く通じます。観光客やビジネス訪問者にとって、英語を使える環境は非常に便利です。
また、公共交通機関においても英語対応は整備されています。特にSBB(スイス連邦鉄道)では、券売機や駅の案内板、公式アプリ、ウェブサイトが英語に対応しており、主要駅では英語のアナウンスも併記されることが一般的です。しかし、地方の駅やローカル線では英語対応が限定的であり、現地語のみの掲示やアナウンスが主流となっています。
行政サービスに目を向けると、移民局や市役所の多くのウェブサイトで英語ページが用意されています。ただし、地方自治体の窓口では英語対応が不十分な場合があるため注意が必要です。また、公式な行政文書や契約書は現地語で作成されるのが基本で、内容を理解するために通訳や翻訳が必要になるケースも多いです。
住民登録、保険手続き、税金、ビザ申請などの行政手続きは、現地語での対応が基本となるため、英語を話せる環境であっても言語の壁を感じる場面があるかもしれません。
都市部の病院やクリニックでは英語を話す医師やスタッフが比較的多く、英語のみで医療サービスを受けられることが少なくありません。これにより、緊急時や健康相談の際に安心して英語を使用することができます。
一方で、地方にある小規模な診療所や病院では英語対応が限られる場合が多く、現地語でのやり取りが必要な場合もあります。それでも緊急電話番号である144では英語での対応が可能で、救急隊員や救急病院のスタッフも英語を話せるケースが多いのは、大きな安心材料と言えるでしょう。
主要都市にある大手銀行や多国籍銀行の支店では、口座開設や各種手続きにおいて英語で対応してもらうことが一般的です。これに対し、地方の小規模な銀行支店では英語対応が限定的である場合もあります。そのため、都市部と地方でのサービスの差を把握しておくことが重要です。
スイスの職場における英語の使用頻度は、業界や企業の性質、地域によって大きく異なりますが、近年では全体的に増加傾向にあります。特に金融、製薬、テクノロジー、コンサルティングといったグローバルな業界では、会議や報告書、メールなど、ほぼすべての業務が英語で行われることが一般的です。
チューリッヒやジュネーブといった都市部では、英語を社内公用語として公式に採用する企業も珍しくありません。一方で、中小企業や地域に密着した職場(地元企業、自治体、小売業など)では、主に地域の公用語が使用される傾向があります。
さらに、国内の異なる言語圏にまたがる企業やプロジェクトでは、英語が社内の共通語として活用されるケースが少なくありません。多国籍企業では従業員の国籍が多様であるため、英語を社内公用語とする事例がますます増加しています。
スイスにおける英語能力には、世代や地域、都市と地方といった多様な要因が影響しています。この多層的な構図を理解すると、国全体の英語に対する適応力がより鮮明に見えてきます。それぞれの特徴を順を追って見ていきましょう。
若年層、特に40代以下では、英語力が非常に高い水準にあります。これは学校教育での英語の早期導入や、インターネット、音楽、映画などを通じて英語に触れる機会が豊富であることが要因です。
一方で、高齢層(おおむね60代以上)の英語力は地域差があり、一様ではありません。これは高齢層が触れてきた教育や文化的環境の違いによるものと考えられます。
スイスでは都市部と地方部の間にも大きな違いがあります。
スイス全体として外国人や英語話者に対する寛容度は、地域によって異なります。たとえば、チューリッヒ、ジュネーブ、バーゼルといった大都市圏では非常に寛容である一方で、地方部では英語使用に対する理解が都市部ほど進んでいない場合があります。
また、フランス語圏では文化的にフランス語を尊重する傾向が強く、一部地域では英語よりフランス語が優先されることもあるでしょう。一方、ドイツ語圏の地方部や小規模な町ではスイスドイツ語が主に使われるため、英語だけで生活するのは難しい場合があります。
スイスにおける英語教育は、公立学校とインターナショナルスクールで大きく異なる特徴を持っています。それぞれの特性を理解することは、スイスの教育環境を理解する上で重要なポイントとなります。
スイスの公立学校では、英語は第二または第三外国語として位置づけられており、小学校の中学年(おおむね3〜5年生、8〜11歳頃)から必修科目として学び始めます。
ただし、英語教育の開始時期や進度は各州(カントン)のカリキュラムによって異なります。ドイツ語圏ではフランス語を先に学び、その後に英語を導入する例が多く見られます。フランス語圏では、多くの地域で第二言語としてドイツ語を優先的に学び、その後、英語を学ぶケースが一般的です。
中学校や高校になると、英語教育はより本格的に進められます。リーディング、ライティング、スピーキング、リスニングの4技能をバランスよく伸ばすカリキュラムが構成されており、一部の学校では特定の教科を英語で学ぶ授業も行われています。
一方、インターナショナルスクールでは英語が主たる指導言語として使用されており、国際バカロレア(IB)などのカリキュラムに基づいて、授業はすべて英語で行われます。
このような学校には、主に駐在員家庭や外交官、国際的なビジネスに携わる家庭の子どもたちが通っています。英語を母語としない生徒向けには、ESL(English as a Second Language)プログラムが提供されており、言語習得をきめ細かくサポートする体制が整っています。
スイスの大学や高等教育機関では、英語による授業を受講することも可能です。特に修士課程や博士課程では、授業が英語で行われる学問分野が非常に広範囲に及んでいます。
学士課程では基本的に各地域の公用語で講義が行われますが、英語による科目やプログラムも徐々に増加しており、選択肢が広がっています。
スイスの多言語環境で育つ子どもたちは、2〜3カ国語を流暢に話すのが一般的です。このため、英語の習得も自然な延長線上に位置づけられています。
さらに、インターナショナルスクールでは、第二言語として現地語の授業が提供されており、留学中には現地語を学べる機会や支援が充実しています。
スイスでの留学生活を成功させるためには、渡航先の言語事情をしっかりと理解しておくことが重要です。スイスは多言語国家として知られており、ドイツ語、フランス語、イタリア語、ロマンシュ語が地域ごとに使われています。そのため、あらかじめ留学するエリアの主要な言語を把握し、準備を進めておくことが得策です。
多くの方が出発前に留学先の言語を学ぶべきか悩むところですが、少しでも基礎を学んでおくことを強くお勧めします。例えば、日常会話や買い物で使えるフレーズについて知識を持っていると現地に馴染みやすくなるでしょう。
具体的には、以下の場面で留学先の言語が有効に活用されます。
これにより、スイスでの日常生活がスムーズに進むだけでなく、現地の文化や習慣への理解も深まるでしょう。
スイスでの生活をしていると、言語を学ぶチャンスは日々訪れます。例えば、地元のイベントに参加したり、地域住民と会話を重ねたりする中で、教室外でも自然に言語を学ぶことが可能です。
スイス人は社交的で寛容な側面を持ち合わせていますが、自分たちの言語を大切にしています。そのため、少しでも現地語を学ぶ姿勢を見せることで、地域の人々から好意的に受け止められるでしょう。
スイスでは英語が通じる場面も多いものの、英語だけでは不便を感じる状況も存在します。例えば、以下のような場面が挙げられます。
これらの場面では、公用語の一つでやり取りできることが望ましいため、長期生活を見据えた言語学習が助けになる場面が出てきやすいです。
長期的にスイスで生活し、人間関係を築いていく上では、ドイツ語、フランス語、イタリア語といった公用語のいずれかを学ぶ努力が大切です。また、これらの言語の習得は社会生活やキャリア形成にも大いに役立つと考えられています。
さらに、永住や帰化を目指す場合、法律上も各地域の公用語の習得が求められるケースがあります。一方で、母語がスイスの公用語である場合や、スイス国内でその言語による教育を受けた経験がある場合には、語学証明が免除されることもあります。ただし、自治体によっては独自の基準が課されることもあるため、事前の確認が欠かせません。
近年、スイスでは英語の重要性が急速に高まっています。この変化は、国内だけでなく、グローバルな文脈でも注目されています。都市部や国際的な産業が集中する地域を中心に、英語が日常生活の中で使われる場面が増え続けているのです。
まず、スイスの教育制度において、英語教育の早期化が進んでいる点が挙げられます。多くの学校では英語の授業が低学年で始まるようになり、早期から実用的な言語運用能力を身に付けさせる取り組みが増えています。同時に、大学での英語講義の数も増加しており、特に国際的なキャリアを目指す学生にとっては欠かせない要素となっています。
さらに、多国籍企業がスイスに進出することで、職場における英語の需要も拡大しています。こういった動向により、英語を実際に業務で活用できる人材の増加が持続的に進んでいます。
今後も英語の必要性は一層高まると考えられています。その理由として、多国籍企業のさらなる進出や外国人労働者・学生の増加が挙げられます。スイスは多文化社会であり、国内でも異なる言語圏が共存しています。そのため、英語が多言語間の共通言語としての役割を果たす場面が増え続けるでしょう。
加えて、外国人とのビジネスや交流の場面でも英語は不可欠な手段です。スイスは国際社会との結びつきが強いため、英語が持つ橋渡しの力がこれからも求められることは間違いありません。
こうした背景や将来的な展望から、スイスにおける英語の価値はますます高まると予想されます。企業経営者や教育関係者にとっては、いかに英語を活用した環境を整備し、人材を育てていくかが、今後の課題でもあり大きなチャンスでもあると言えるでしょう。
目次
関連記事